民生常任委員会視察報告
5月22日から25日まで、民生常任委員会により先進都市調査を行いましたので、ご報告いたします。
1.桑名市 桑名市総合医療センターについて
(1)桑名市総合医療センター設立の経緯について
桑名市民病院は、三重県北勢保健医療圏の中核病院及び救急医療体制の一翼を担っていたが、卒後臨床研修制度による医師不足や診療報酬制度の改正等、医療政策の変化や患者数の減少により、病床利用率の低下、医業収益に占める人件費割合の増大、一般会計からの繰入金の増加といった収支構造の悪化を招いていました。また、桑名地区は、一次医療体制は充実しているものの、救急・入院に対応できる二次医療を一つの病院で完結できる医療体制が整っておらず、重篤患者の多くが市外・県外へ搬送される状況にあったことから、平成18年1月に桑名市民病院あり方検討会が設置されました。
以下、桑名市総合医療センター新病棟開設までを時系列にまとめると
昭和41年4月:桑名市民病院として開院
平成18年1月:桑名市民病院あり方検討委員会を設置
・基本機能:400床前後の二次医療可能な自己完結型の急性期病院を
・経営改善:収支構造改善と職員意識改革を
・経営形態:非公務員型の地方独立行政法人が望ましい との答申書を8月に提出。
その実現方策は、民間病院との再編統合の検討が必要とされた。
平成19年1月:公営企業法の一部適用から全部適用へと移行。
平成20年4月:医療法人山本総合病院との再編統合に向けた交渉が始まったものの、条件があり合わず8月には交渉が中断。
平成21年2月:特別医療法人平田循環器病院から寄付の申し出があり、再編統合を前提とした協議・交渉が開始され、同年10月に地方独立行政法人桑名市民病院が発足。(平田循環器病院は、桑名市民病院分院となる)
地方独立行政法人桑名市民病院評価委員会では、桑名市民病院の独立行政法人化は、あり方検討会の答申の趣旨である二次医療が可能な自己完結型の400床前後の急性期病院を実現するためには、この度の合併だけでは不可能であり、他の病院との合併も含めて、実現するための方策を今後も継続的に模索するべきとの付帯意見書を市に提出。
平成22年9月:市議会が「桑名市民病院の再編統合と地域医療の充実に関する決議」を採択。
平成23年1月:桑名市、桑名市民病院、山本総合病院で「地方独立行政法人桑名
市民病院と医療法人山本総合病院の再編統合に関する確認書」を締結
平成23年12月:2病院間で統合に関する基本合意書締結
平成24年4月:地方独立行政法人桑名総合医療センターが発足
・桑名西医療センター(桑名市民病院 許可病床数234床・稼動151床)
・桑名南医療センター(桑名市民病院分院 許可病床数79床・稼動49床)
・桑名東医療センター(山本総合病院 許可病床数3489床・稼動232床)
平成24年7月 桑名市議会新病院の整備等に関する特別委員会が提言書を市に提出。市が「桑名市総合医療センター基本構想・基本計画」を策定
平成26年3月:実施設計完了
平成27年10月:新病院整備工事着工
平成30年1月:新病院新棟完成
平成30年5月:新病院診療開始
となっていました。
(2)新病院の機能と特徴
3病院の統合による機能の集約・集中化によりメリットが生まれており、がん対策の強化するため血液腫瘍内科、消化器肝臓内科、消化器外科、呼吸器外科、乳腺外科の新設、心筋梗塞、脳卒中、消化器系疾患への対応強化のため、各関係内科と外科が連携した循環器センター、脳卒中センター、消化器センターの新設、さらに救急医療を強化するために救急科が新設され、すべての科の救急初期診療をER専門医が診療するなど様々な強化が図られていました。
新病院の規模としては、3病院合計で一般病床620床及び療養病床42床の662床から一般病床400床となる予定ですが、5月に診療開始した新病棟は321床であり、残りの79床は診療棟を隣接している西医療センター(旧桑名市民病院)を改築中でした。
医師確保については、3病院統合後の理事長に当時現職であった三重大学医学附属病院長を迎えたこともあり、主に三重大学から派遣されており、統合当時の80名弱から現在は120名に増強されていました。また、看護師についても、統合前は321名で看護師不足により病棟及び病床閉鎖を余儀なくされていたそうですが、現在は400名の看護師を抱え十分な医療・看護体制がとられていていました。
桑名市ではあり方検討委員会から相当の時間を費やしましたが、重要なことは医師会・行政・病院が一体となって進めていくことであり、医師の派遣元が協力してくれるかという問題もあるとのことでありました。また、議会の協力も不可欠で特別委員会の設置、議会決議等、発足まで何度か暗礁に乗り上げたものの、実現する後押しになったとのことでありました。新病院に対する市民の反応や病院運営の評価等については、診療開始間もないことから実績を見たうえで評価していくとのことでした。
本市においても病院のあり方については大変重要な課題であり、地域により事情は違うが、今後の地域医療を考えるうえで非常に参考になりました。
2.岡山市 在宅介護総合特区(AAAシティおかやま)について
岡山市は人口721千人、65歳以上割合24,8%、介護認定率21,2%、介護保険料6,160円、介護給付費583億円。医療・介護資源は政令市トップクラスでありますが、2025年以降の長期展望を考慮して平成25年2月に「地域活性化総合特区」として国の指定を受けた事業であり、「高齢者が、介護が必要になっても住み慣れた地域で安心して暮らすことができる社会の構築」をコンセプトに在宅に特化した11項目の規制緩和を求めましたが、協議の結果5つの事業の実施となっていました。
(1)通所サービスに対する自立支援に資する質の評価の導入
質の評価制度を導入することにより、本人のQOL向上、家族負担の軽減、事務所の改善意欲という効果をもたらすことになり、また、要介護度の改善に強いインセンティブを与える仕組みを創設し、要介護度を改善させると、報酬が増える仕組みとした。
市内300か所程の事業所へ参加を呼びかけた結果、平成26年度から平成29年度に150~160程の事業所が参加を表明、5つの評価指数のうち3つ以上達成した60~70事業所については、さらに日常生活の機能評価の維持・改善度でアウトカム評価を行い、インセンティブ付与として、指標達成事業所でアウトカム評価で指標達成事業所は、表彰と情報公開、上位の10事業所には、奨励金(10万円)が付与されていました。
事業成果としては、アウトカム評価上位事業所の利用者における要介護度の改善が図られ、評価上位事業所の利用者では、介護給付費の伸び率が少なくなるなど、平成28年度事業費約200万円に対して、約△7,000万円の財政効果があると算出されていていました。
(2)最先端介護機器貸与モデル事業
介護保険の給付対象ではない、ロボット技術等を活用した最先端介護機器を要介護者等に1割の自己負担で貸与するものであり、実際の貸与を通じて効果を検証しその有用性等を国へ示し、最終的には介護保険の適用対象とすることを目的としている事業です。対象機器は、コミュニケーション型介護ロボットや見守りシステムなどの最先端介護機器12製品があり、コミュニケーションロボットを使用して7カ月を超えてくると認知症の問題行動が改善され、その後も改善を維持して、それによって介護負担感が軽減もみられ、また、ロボットを抱き上げることで、精神面だけでなく、身体面でも改善がみられているとのことでありました。
(3)介護予防ポイント事業
高齢者が自ら介護予防に積極的に取り組んでいることをポイント評価し、貯まったポイント数に応じて換金等が出来るものです。
(4)医療法人による配食サービス実施事業
医師が栄養・食事の管理が必要と認める患者に宅配・弁当持ち帰りをすることにより、在宅での食事療法が出来、在宅療養者が増加し、医療費抑制効果が期待できます。
(5)訪問看護・介護事業者に対する駐車許可簡素化事業
利用者の緊急の求めに応じて訪問する場合を想定した包括的な時間での駐車許可が可能になる内容で、平成25年度の制度実現後、平成26年度は駐車許可申請件数が例年の実績より25%程度アップしたそうです。
現在は、第2期岡山型持続可能な社会経済モデル構築総合特区の取組として、
・高齢者の活躍推進事業(生きがいづくり)
・通所介護の送迎の柔軟化(居宅以外への送迎可能)
・介護従事者の働き方改革の実現(介護ロボットレンタル)
・認知症情報共有事業(情報を市と警察と地域一体に)
・訪問介護改善インセンティブ事業(リハビリテーション職が同行)
・通所介護サービスにおける質の評価の拡充(状態改善を後押し)
などを国に新規提案としているとのことであした。
岡山市の人口は、まだ人口は増加中で、平成32年が人口のピークと捉えている。それでも、平成37年いわゆる2025年には認知症高齢者が平成25年に2万人(要介護認定者数の60%)だったのが、3万人になると見込んでおり、介護給付費は平成12年度193億円が、平成26年度535億円となり14年間で約2,8倍、平成37年度推計は787億円と見積もっているなど、改革していかなければ市の生き残りは難しいとの強い決意のもと、この事業が遂行されていました。この第1期の取組をさらに進めようとする第2期新規提案の考え方に、超高齢化時代に積極的、かつ果敢に立ち向かっていく決意が感じられました。
3.大牟田市 地方独立行政法人大牟田市立病院について
大牟田市は炭鉱の町として栄え、昭和30年代には人口22万人を超えていたが、相次ぐ炭鉱の閉山等により現在は約117,000人となっています。また、行政面積については、室蘭市とほぼ同じ81.45㎢です。
(1)地方独立行政法人化までの流れ
昭和25年:73床の病院として開設
昭和36年:社会保険病院を買収し269床の公的総合病院となる。
昭和39年:地方公営企業法の財務適用を適用(一部適用)
平成 7年:現在地に移転新築工事が完成、市立総合病院400床として開院。
平成 9年:三井三池炭鉱閉山
平成15年:経営改善3ヵ年計画策定
平成17年:350床に減床
平成18年:第2次経営改善3ヵ年計画策定
平成19年:市立総合病院経営形態検討委員会設置
平成21年:地方独立行政法人大牟田市立病院定款議決
平成22年:地方独立行政法人大牟田市立病院開設
(2)経営形態検討委員会における検討及び答申
委員会から見た課題としては、病院長に病院運営に必要な権限が付与されていない、職員採用など柔軟な定員管理ができない、病院業績とは関わりなく賃金が決定され、職員のモチベーション向上につながる制度となっていない、などが挙げられ、公営企業法全部適用では十分な改革が行われる事例が少ないことから、平成19年12月に機動性、柔軟性が発揮でき、責任の所在が明確である「指定管理者制度」か「独立行政法人化(非公務員型)」が相応しいとの答申が出されました。
(3)地方独立行政法人化選択の経緯
答申を受け、直ちに病院内にPT結成し先進事例の調査、病院内での方針決定、市と協議し、市との方針決定、平成20年7月に市議会に市の方針を報告、公表を経て、平成21年3月に市議会で定款議決されていました。
地方独立行政法人化のメリットとして、権限の明確化、職員定数からの解放、独自の人事給与制度の導入、職員の円滑な引継ぎ、職員の意識改革などが挙げられる一方、デメリットとしては、管理部門の経費増大、移行費用や新たな経費の発生などが挙げられたが、メリットの方が大きいとの判断したようです。
なお、職員への説明は、平成20年7月の市議会説明後に行われ、同年12月に労使妥結に至っていました。
(4)独立行政法人化後の動き
・BSC(バランススコアカード)を活用したPDCAサイクルの確立が図られていましたが、具体的には、議決された中期目標に応じ院長が方針案を提示、各部門・個人の年間計画を作成後、10月には中間報告とPDCA、2月には活動実績報告と次年度をヒアリングの実施。作成した「行動計画・報告書」は、全職員、出向元大学にも公表し、年1回、主任教授(出向元教室)に持参し、報・連・相の形で面談を実施。
・柔軟な職員採用と配置では、看護基準7対1を導入したこともあり約90名増の約300名の看護師体制がとられていたほか、薬剤師や臨床検査技師、理学療法士などの増員。
・人事給与制度の見直しでは、病院内にWGを結成し、経営コンサルタントのアドバイスにより新たな制度を設計。具体的には、薬剤師・看護師、その他の医療技術者、事務職の3つの給料表の導入、目標評価と行動評価を組み合わせ5段階で評価し、年度末の賞与(1月分)±αや次年度の昇給に反映させる制度を導入。
医師の人事給与制度においても、医師手当や管理職特別勤務手当の導入のほか、賞与についても業績連動の賞与や医師評価手当の導入がされており、モチベーションの向上につながっている。
・その他、研修制度を整備・充実させるとともに、育児短時間勤務の導入などワークライフバランス事業に取り組み、職員自らも働きやすい職場環境づくり。
・医師確保及び経営状況
医師派遣については、大牟田市内の2次救急医療のほとんどを受け入れていることもあり、久留米大学からの派遣で現在問題は生じていない。経営についても、市からの基準内繰入(約7億)を除いても、経常収支比率106%前後、医業収支比率99%以上を確保しており、順調に推移しているとのことでありました。
本市においては、平成22年に公営企業法全部適用に移行し事業管理者による病院運営となっていますが、近年は、医師不足による診療科の廃止・縮小、看護師不足等により病院経営の見直しが求められており、一つの選択肢として参考になりました。