室蘭市議会議員

小田中みのる

MINORU ODANAKA

小田中みのるの市議会レポート
VOL.34

先進都市調査報告

7月15日から18日の日程で、会派による先進都市調査を行いましたので報告いたします。

Ⅰ 東京都 荒川区

調査項目 子どもの貧困対策について

荒川区では、「区政は区民を幸せにするシステムである」を基本姿勢に、荒川区民総幸福度(GAH・グロス・アラカワ・ハピネス)の研究への取り組みを進めており、当面は不幸を減らす取り組みが必要として、H21年5月に子どもの貧困問題対策検討委員会を設立、同年10月には、荒川区自治総合研究所を設立し「子どもの貧困・社会排除問題研究プロジェクト」をスタートさ、H23年8月に最終報告書(あらかわシステム)を提言し、荒川区子ども貧困・社会排除問題検討部会を設置した。

あらかわシステムとは、①区職員の動機づけや問題意識の共有化が必要であり、「子どもの貧困」に取り組む区としての姿勢を明確化し、②組織・人材の強化、具体的には、荒川区子ども貧困・社会排除問題検討部会の司令塔としての役割を強化し、教員OBの登用や児童相談所への職員派遣、スペシャリストの育成に力を入れ、③子どもの貧困に陥る恐れのある世帯の見守りや貧困のシグナルの早期発見には、地域との連携が重要であり、連絡体制の構築や支援を行える仕組みや地域の体制づくりを進めること、④リスクへの対応策、決定因子への対応策、子どもの貧困に陥った世帯へ党への対応策など多様な政策・施策の4つから構成されており、相互に影響し合う包括的なシステムであり、リスク(家計の不安定、生活の負担、疾患・疾病等、家族の人間関係、孤立、貧困の連鎖等)を持った世帯のシグナルを早期に発見し、包括的にリスク軽減の方法を提供することで、子どもの貧困・社会排除の状態に陥ることを回避し、リスクと決定因子(保護者の就労状況・就労力、保護者の養育状況・養育力、生体に対する支援の有無)の両方を持っている世帯に対しては、子どもの貧困・社会排除の状況から離脱、自立生活への移行を目的としている。

これまでに具体化した事業としては、産後うつ傾向や育児不安等の症状を持つ親への精神科医による個別相談(ママメンタルサポート事業)、子ども家庭支援センターの相談体制の強化、良好な学習環境にない子供の学力に対応した学習支援事業(学びサポート事業)の創設、保育園における早期発見体制の充実などがあった。

子どもの貧困・社会排除問題は、様々な要因が複雑に絡み合って発生しており、その対策も非常に難しいものがある。荒川区では、先進的な取り組みを実施しているが、区民に最も身近な基礎自治体として「区民の安心の砦」となるという意識のもと、問題意識を共有し区としての姿勢を明確化することが重要であると感じた。

Ⅱ 山口県 宇部市

調査項目 障がい者就労支援について

1 障がい者の現状について

宇部市の障害者手帳保持者は、身体障害者手帳7,572人、療育手帳1,362人、精神障碍者手帳1,101人の合計10,035人で人口に占める割合は、5.9%であり、本市と同じ割合である。

就労系の障害者福祉サービス利用者数は、就労移行支援事業 25名、就労継続支援事業A型 78名、就労継続支援事業B型 391名(平均工賃H24年 18,815円)となっている。

宇部市が昭和37年から実施していた「障がい者技能習得訓練事業」は、知的障害者が「訓練生」として、花づくり、水やり、草刈り、清掃など、7公園内の維持管理を職員とともに取り組んできたものであり、現在は、就労継続支援事業A型「宇部ときわ後援障害者福祉サービス事業所」を市が立ち上げ、男性15名、女性3名が雇用されている。

2 就労支援ネットワーク会議について

ネットワーク会議は、障がい者の自立と社会参加を図ることを目的に、関係機関・団体などから構成されており、就労支援、移行支援、継続支援の3つのワーキングチームが月1回の会議を開催し、雇用と福祉的就労を取り巻く諸課題がそれぞれ検討され、全体会議であるネットワーク会議で障がい者就労を取り巻く労働・福祉、福祉や教育から雇用への移行等を含めて、総合的に議論がなされている。

なお、ネットワーク会議に係る経費(研修会や定期情報誌作成など)については、「うべ障がい者就労ネットサポーター」(個人・1口2,000円、法人・団体・1口 10,000円)による協賛金を充てている。平成26年度については、募集期間は5月1日から6月30日まで、協賛金額については、56件、734,000円となっている。

3 障がい者就労ワークステーションについて

宇部市では、平成22年度から障害者の就労支援を「市が率先して、具体的に、見える形で」を基本コンセプトに、宇部市障害者就労ワークステーション、愛称「うべ☆きらめきステーション」を庁舎1階に設置した。この事業は、①障がい者の就労を支援するためにも、市役所も一事業所として、障がい者を積極的に雇用し、意欲のある障害者の自立を促進する。②庁内業務の効率化を図る。③市が率先して知的障害者や精神障害者等を嘱託(臨時)職員として雇用することにより、民間障害者雇用促進を図ることを目的としている。

受験資格は、療育手帳または精神障碍者保健福祉手帳保持者、発達障害者(医師証明)で、自力通勤、単独で事業可能であること。さらに、任用終了後もさらに一般企業での就労を目指し、継続して働く意欲のあるものとなっており、雇用形態は、「嘱託職員」、賃金は日額5,200円、1日7時間、月20日程度の勤務、任用期間は、当初最長2年からH24年度からは、最長3年となっており、現在は、7名が採用されていた。

採用後は、ビジネスマナー研修により市役所で社会人としては働くための就業上のマナーを習得し、市役所内の各課から依頼を受けた定型的な業務を集約し、事務処理しており、主な業務の種類としては、データ入力、文書封入、印刷物修正、書類仕分け・並べ替え、書類印刷・製本、会場設営、接客対応などであり、急なアンケート等の発送・集計業務もあるということであった。

朝礼、終礼では、人前で話すことによる面接の練習や、業務日報により作業の目的・必要性を把握するとともに進捗度のなど、「訓練」ではなく「勤務」であること、仕事を成し遂げる「責任」、チームワークの情勢など、職業意識を高め津ことが運営上の課題ということであった。

一方、業務依頼課の反応としては、事務事業見直しにワークステーション活用が選択肢の一つとなっており、業務範囲・依頼部署が広がってきているものの、依頼すると余計な手間がかかるなどの理由により業務依頼したことのない職員が6割近くおり、今後の対応可能な業務の範囲など、職員への周知活動が課題ということであった。

本市においても、障害者就労支援は更なる充実が必要な課題であるが、宇部市の障がい者就労ワークステーションは、「市が率先して、具体的に、見える形で」との考えがはっきりと表れている事業であり、事務事業の見直しの観点からも取り組むべき事業であると考える。市が率先して障害者雇用に取り組むからこそ、「うべ障がい者就労ネットサポーター」や民間事業者による障害者雇用に繋がり、結果としては障がいのある方々がそれぞれの地域で安心して生活することや働くことができる社会になるのではと考えさせられる、非常に参考となる視察であった。

山口県 萩市

調査項目 萩市立萩図書館について

萩市立萩図書館は、明治34年に日本で最初の郡立図書館・県内最初の公立図書館である阿武郡立萩図書館として開設。大正12年に郡制廃止により山口県立萩図書館に改称。昭和48年に「一県一館」の方針により県立図書館は閉館となり、市立図書館建設を条件に県立図書館の貴重資料約4万点や明治期から蓄積された新聞等が萩市に移管され、昭和49年に旧萩市図書館オープン。その後、平成23年に児童館との複合施設である現図書館が開館された。

新図書館(児童館との複合施設/萩ありぶらり)の概要

1.基本方針

(1)市民の誰もが気軽に利用できる図書館

(2)子供の創造性を育む図書館

(3)ひとづくり・まちづくりの源となる図書館

(4)市民の暮らしに役立つ図書館

2.施設

(1)延床面積:約2,914㎡(1階1,944.65㎡、2階950.44㎡、屋上階19.2㎡)

(2)児童管内のわくわく子ども図書館:約114㎡

(3)建設費:図書館部分~約11億円  児童館部分~約3億円 合計~約14億円 合併特例債活用

3.職員体制

(1)市職員 5名(内司書 2名)

(2)NPO  理事9名(市職員3名兼務)、監事2名、会員68名、職員18名(事務局1名/司書13名/保育士等4名)

4.萩図書館の特色ある取り組み

(1)NPO法人「萩みんなの図書館」との共同運営

萩市では、文化的なものは指定管理制度に馴染まないが、今後も全ての業務を直営で行うのは難しいとの考えから、他の図書館や公民館、学校との連携、図書館協議会、選書や広報活動など図書館全般に係るコーディネートは市の責任として直営とし、カウンター業務、図書館資料の受入、データ入力、資料の整理、蔵書点検など図書館運営の全般については、多岐にわたる市民の知識や意見を取り入れ、市民の社会貢献の場としての活用、市民目線でのサービス、職員のモチベーションの向上と安定雇用を目的とし新図書館会館前から市民全体で設立したNPO法人「萩みんなの図書館」との委託契約により運営している。年間委託料54,000千円。

(2)支署と保育士によるコラボサービス

児童サービスの充実のため、司書と保育士を採用したことにより未就園児親子対象行事が活性化するなど、好評を得ている。

(3)国立図書館デジタル化資料送信サービス

(4)電子図書館・デジタルアーカイブの開設

(5)読書通帳機の導入

(6)明治維新関連資料の充実とレファレンス専門員制度の導入

(7)ICタグ・自動貸出機の導入と館内返却ポストの設置

(8)雑誌スポンサー制度の導入

雑誌コーナーの充実と市民が支える取り組みの1事業としてアピールすることを目的に、スポンサーが任意の書店と直接契約(基本的に1年契約)により書店から直接配達されるものであり、雑誌架側面にスポンサー名を表示する。スポンサーは、個人でも企業でも可であり、現在、協力団体数は59件、雑誌数は141冊(230誌中)となっている。

(9)行政資料情報のワンストップサービス

(10)公衆無線LANの導入
のほか、コミュニティーの場としての機能を充実させていた。

なお、入管者数は、約34万8千人で対旧館比10倍、貸出点数は2倍となるなど、大幅な利用者増となっている。

本市においても、環境科学館建設構想とともに耐震補強する予定である現図書館の合築も検討しており、新図書館建設となった場合には、だれもが気軽に利用される図書館を目指すことはもちろん、様々な機能を導入するとともにその運営主体をどのようにするのか、様々な角度のからの検討が必要と感じた。

小田中みのる
室蘭市議会議員