視察報告
視察年月日・・平成28年10月31日~11月1日
視察場所、及びテーマ
①長崎県・・・・・・・長崎歴史文化博物館
②長崎県大村市 ・・・防災行政無線について
1.長崎県・・・「長崎歴史文化博物館」
◇長崎県歴史文化博物館の建設までの経過、管理運営などについて教えていただき、八王子市で設置検討される郷土資料館などの知識とさせていただきたく視察を行いました。
◇長崎歴史文化博物館副館長 野間 誠二氏、学芸員 林 美和氏
◎長崎歴史文化博物館について
◇建設までの経過
・平成10年11月
・諏訪の森(現在、施設が整備されている地区名)構想として部会を作り、方向性を協議
・平成11年12月
・諏訪の森部会の最終提言が出される
☆県内の特色ある歴史と文化を一覧できる歴史文化博物館を整備する
☆長崎奉行所立山役所の往時の姿を出来るだけ復元するスペースと、歴史資料の展示スペースを区分しての整備が望ましい、などの提言が出された。
・平成12年11月
・諏訪の森再整備の基本方針が発表される
・平成13年4月
・政策調整局都市再整備推進課が設置され、建設準備体制が整備される
・平成13年11月
・長崎県と長崎市間で建設及び管理運営に関す覚書を締結
負担割合は 〇建設費 県:市 2:1 〇運営費 県:市 1:1
・基本構想(案)を公表、パブリックコメント実施
・平成13年12月
・展示設計指名型プロポーザル実施
・建設工事設計候補者選定公募型プロポーザル公告
・平成14年2月
・㈱乃村工藝社と展示設計業務委託契約締結
・黒川紀章建築都市設計事務所と建設工事設計業務委託契約締結
・建設工事・・竹中工務店
・平成17年4月
・㈱乃村工藝社を指定管理者として指定
指定期間5年間
・平成17年8月
・建設工事、展示工事竣工
・平成17年11月3日
・開館
◇歴史文化博物館の運営について
○長崎歴史文化博物館条例に基づき指定管理者で監理運営している。
・第一期
㈱乃村工藝社 指定期間:平成17年4月1日~平成22年3月31日 (5年間)
・第二期
㈱乃村工藝社 指定期間:平成22年4月1日~平成28年3月31日 (6年間)
・第三期
㈱乃村工藝社 指定期間:平成28年4月1日~平成34年3月31日 (6年間)
〇管理・運営の負担について
・負担金事業
人 件 費 1億2500万円/年
施設運営費 1億円/年
事 業 費 1億円/年 他
※以上を含めて 3億5千万円/年は県の予算。
余剰金については返還、不足した場合は指定管理者が持ち出しとなる。
※博物館や美術館の指定管理では、通常は運営を指定管理者、学芸員などの人件費は行政側負担となっているが、ここは違って、学芸員の人件費を含めて職員費となっている(直営型)
※職員の人員は25名(館長、総括マネージャーを含む)
・利用料金
常設展経費
企画展経費
ショップ、カフェ経費
利益(または損失)
※以上の観覧料、使用料、図書販売収入、ショップ・カフェ収入、協賛金などが指定管理者の収入となる。
〇付加価値として
・土地柄、修学旅行を多く受け入れている観光都市であるが駐車場が少ないため、この施設建設時に考慮して観光バス60台分の駐車場を確保している。
◇特記事項(野間副館長より)
〇博物館に人を集めるということについて
・通常は特別展で人を集めようと考えるが、イベントやお祭りごとで本当に人が集まるのか、と考えると、必ずしもそうではないのではないか。常設展部分の魅力という効果が必要である。
常設展は人のイメージとして「変わらない、常にそこにある」と感じているため、これで人を引き付けるためには、常設展は白かったものを黒に変えるくらい思い切った切り替えをしていかないとなかなか響かない。(・・・そういったことをしている)
・真新しい展示、流行りものには飛びつき易いが5年とか10年という少し長期に渡って考える場合、大事なことは基本部分の積み重ねということになるのは博物館でも同じことであると考えているため、常設展をはじめショップやカフェなどの運営もこういった考えで丁寧に行うことを気にかけている。
・小学生をうまく使いたいと考えている。子どもたちが授業の一環で訪れた時に興味を持ってくれれば親に伝わり再度の来場が見込める。更にその子どもたちが大きくなった時の来場なども考え、地道な活動の積み重ねと飽きさせない工夫で来館者の確保を目指している。
〇長崎学
・乃村工藝社からの提案。行政の”学”の範疇はどうしてもその行政単位となり地域を出ないため狭くなってしまう。長崎周辺地域を含めた長崎というものの歴史・文化という考え方が必要だと考えて取組んでいる。
・ただしあまり広くしすぎると今度はぼやけてしまうため注意が必要。
・長崎出身者が里帰りした時に訪れてくれたり、友達が他県から訪ねて来たときに長崎というところをこの博物館で紹介できる、そんな施設を目指している。
〇その他
・印刷物は少なめにしてホームページを含めSNSの方に重点を置いて宣伝などを行う方向に代わってきている。
○所感
◇博物館とはこういった施設を言うのであろう、という理想的な施設だと感嘆しました。
まず展示室に関しては天井の高さ、照明、空間の確保など素晴らしく、まさに教科書(博物館学)を具現化したような造りになっています。ショップ、カフェ、図書室の設置などもよく考えられており、八王子市で資料館などを作るのであれば検討前に関係者は一度見ておく価値のある施設です。観光バス60台と来場者を受け入れる駐車場は地域事情を考慮しており、こういった考え方も参考になります。元々長崎という土地柄から歴史・文化に関しては海外貿易が盛んであったことなどを背景に日本の中でも大変特徴的で貴重な資料がたくさん残っている場所であり、約50000点の資料と1600点を超える古文書を保持しており、常設展は学芸員の方たちがテーマを絞り込んで様々に入れ替えていくということでした。通常、博物館や資料館の弱いところはいつ行っても変わり映えのしない常設部分であると思いますが、ここの取組みは大変参考になります。資料が多いため展示していないものの保存のための収蔵庫が大変充実しているということもお聞きしました。博物館ではこれも非常に大切なことです。地域に名実ともに誇れる博物館の好事例として大変参考になりました。
八王子市が新たな文化施設を作るときには学芸員の方など専門的知識が豊富な方を検討段階から入れて、具体的な検討をしていただけたらと、ここで学芸員の方に様々な経験談を交えてご案内をいただいている時に強く感じました。
2.長崎県大村市・・防災行政無線について
◇大村市でこの11月より導入される防災行政無線について、全市民宅に配布して行うという大変興味深い取組みであるため視察をお願いしたものです。
◇大村市市長公室危機管理課 課長補佐 鈴田 正隆氏 他2名
◎大村市の防災行政無線の概要
◇導入までの経緯と経過
・大村市には防災行政無線が整備されておらず市内に25基程度設置されていたスピーカーからのサイレンしかなかったため、平成23年10月に大村市一斉伝達システム整備方針を策定した。この際、屋外の拡声子局の整備と屋内の戸別受信機の全世帯設置を行う方針とした。 (屋外は同報系防災行政無線(60MHz)、屋内はコミュニティFMを利用した防災ラジオを全世帯に配布、公共施設・避難所には個別受信機を設置)
・平成25年11月に整備方針の見直しを実施した。
全世帯の屋内に配布する防災ラジオについて、コミュニティFMを利用するとJアラートとの連動ができず災害発生後にしか情報伝達ができないこと、行政情報が伝達できない、FMオオムラの放送は21時までであるためそれ以降の時間帯に対応できないことなどから、事前の情報伝達が可能なシステムとして「デジタルの280MHz周波数帯を使用した地域情報配信システムを検討し整備する方針に改定した。
※デジタル280MHzの特徴
・地上回線と衛生回線の二重の通信経路が可能 ⇒ 有線断絶対応が可能
・電波出力が大きく、屋内への到達性・浸透性に優れている。
・専用の防災ラジオはAM/FMの放送の受信が可能
・防災無線に対する受信感度に優れ、屋外アンテナの設置工事が不要
・60MHzに比較して安価
・平成26年度から平成27年度 屋外拡声子局整備工事
・平成28年4月から運用開始、11月から全世帯への防災ラジオの配布実施
◇特徴、特記事項
・設置対象を全戸としたのは災害時の人的被害を限りなくゼロに近づけたいことからで、災害発生の可能性のある暴風雨、雷、などの状況を考えると屋外拡声子局の放送が聞こえづらいこと、また屋外拡声子局が被害を受けることなどを考えると、屋内全戸配布が望ましいという結論となった。
・伝えたい情報を確実に伝えるためには、操作の難しい物や最新式の物は相応しくない。老若男女、障害の有無に関わらず操作が簡単であることが条件になる。
・手上げ方式(必要と思われる希望者のみへの配布)や、有償にした場合には全戸に行き渡らないと考え、対象を全戸配布・無償とした。
・ポケットベルの電波を利用した。ポケットベルを思い出せば理解できると思うが、これにより文字情報(テキスト)で飛ばし、受信機で音声変換を行っている。また機器も安価にできる、電波の浸透性がよく家に受信のためのアンテナ設置などは必要ない。
機器の値段は17500円/台。
アンテナ設置などについては新築や借家など壁に穴を開けたくない、という要望も多かった。
・機器に関して
停電時は機器が保持しているバッテリーでライトが点灯する(停電時でも作動する)
留守にしている時に受信した場合、再確認したい場合など直近のデータは保持されているため再生して確認することが可能である。
・175ある町会を地域でグルーピングして、その地域での情報連絡もこの機器を通じて実施する。発信側のIDで地域毎の区分けが可能となっている。
・情報伝達方法に関してはプッシュ式のもの(発信側からの一方的な伝達)が多いが、データを送信してそれを自主的に受けてもらうプル型の形態にすることで意識の醸成を行えると考える。
○所感
・災害時、異常気象時には雨戸や窓を閉め切っているため一斉放送が聞こえないではないか、という懸念は八王子市の議会でも度々聞かれる話ですが、八王子市では今のところそれに対する妙案に行きついていません。大村市の防災ラジオの優れている点は①全市民が共通の型の機器を使用するため理解がし易い ②聞き逃しても再生して確認が出来る ③荒天時に家屋内で情報を得られる ④ラジオ機能なども持っているため災害用グッズとしての価値もある ⑤バッテリー内臓で停電時でも使用できる ⑥全戸に対して無償で配布するために安価な設定としている ➆普段の自治会活動などにも併用できる などがあげられます。特筆すべきは、現在はほとんど使われていないポケベルの機能に注視したことだと思います。世帯数が少ないから出来た?、いやそんなことはない、住民税はほとんどどこでも同じようなものですから予算に対する施策に掛かる費用の比率は変わらないはずです。要は無駄なことをしないように対策を絞ってより有効だと判断したものに集中して費用を掛けること、十分な検討とアイディアとやる気の問題だと思います。この防災ラジオの取組みは大変よい勉強となりました。