視察年月日・・平成28年2月8日~2月10日
視察場所、及びテーマ
①香川県高松市・・・アートシティ高松
②愛媛県宇和島市・・空き家利用の田舎暮らし
③愛媛県松山市・・・シティプロモーション推進課の取組み
◇高松市は文化芸術の持つ力をまちづくり推進に活かす取組みを進めており「文化芸術振興計画」を策定し都市の再生に取り組んでいます。この文化芸術振興計画の内容と、合わせて「瀬戸内国際芸術祭の取組み」について視察いたしました。
・高松市は古くから瀬戸内海の交通の要衝であり、四国の中核的な都市として発展してきた歴史の中で、国内外の多くの交流を重ねたことにより個性豊かな文化芸術を育み文化の香り高い都市へと発展させて来た下地があると認識している。
高松市民へのアンケート結果では文化芸術が盛んな街であると思う人の割合が「強く思う」「どちらかといえばそう思う」を合わせると40%となっており、文化芸術の鑑賞や活動を大切だと思っている人の割合が88%と高いなどの背景から、文化芸術を広く生活の中に浸透させていく必要を感じている。
・こういった背景の中で文化・芸術を考えるが基本的に文化・芸術については
☆すぐに結果が出るものではない
☆きっかけを与えて長い年月の中で成果を出していくもの
という特に取組み期間については長期的な視野に立って取り組むべきものとして捉えており、長期に渡って取り組むためには、
☆子供たちに文化芸術に触れる機会を多く作ってやること
☆町の賑わいの一つとして文化芸術に目を向ける
というような、年月を掛けて少しずつ人づくりの面、街づくりの面など多角的な取組みを行っていく方針を立てている。
・平成25年12月に制定された「高松市文化芸術振興条例」に基づき、平成27年度~30年度の文化芸術振興計画を策定した。
・計画の中では四つの方針を定めている。
①はぐくむ・いかす、②であう・ひろがる、③つなぐ・あむ、④つたえる・たのしむ
○はぐくむ・いかす
・高松市内の活用されていない資源・・空き家、廃校、商店街の空き店舗など・・を利用して、国内外からアーティストを招聘して滞在してもらい、地域とのつながりの中で作品製作を行ってもらい、地域との協働が生まれ地域に賑わいをもたらすとともに、アートの普及や若手アーティストの育成につなげていく。補助金としては100万円を上限としており、地域と協働でアートに取り組む体制づくりなども支援していく。
・他に高松市文化奨励賞の見直し、子どもを対象としたコンクール等の支援、高松市にゆかりのある人材の発掘などを主な活動としている。
○であう・ひろがる
・子どもの育成をメインテーマとした活動で、学校の持つ役割に多いに期待しつつ教育委員会との連携のもと発達段階に応じたプログラムの再編を行っていく。
具体的な手法として、例えば学校にアーティストを派遣したり、子どもが直接様々な文化芸術に触れる機会を作っていくが、これらは各学校の教員の理解が必要であり、プログラムも希望する学校に手を挙げてもらう形で導入していくこととしている。
・香川の伝統工芸である香川漆器を幼少期から使用して生活の中の身近なところで漆芸と触れ合うために、給食の食器に香川漆器を使用している。こういった身近なところから子どもたちに興味を持ってもらい、後の人材育成などにつなげていきたいと考えている。
・若いお母さん世代が文化芸術に触れる機会が減っているため、就学前児童のプログラム展開の中に児童だけではなく保護者の興味をひく内容も加味して展開していくことを考えている。
・ホームページは見ようとしないと見ないが、フェイスブックなど登録をしておけば勝手に配信される媒体を利用して文化芸術情報の配信を行うことを進めている。
○つなぐ・あむ
・芸術系大学との連携を積極的に進める。
・障がい者施設や病院など施設へ出向くことにより、誰もが文化芸術に対して出番のある形を形成していく。ホスピタルアートの展開なども実施。
・高松国際ピアノコンクール(四年に一度)推進事業を進めるとともに、開催の期間以外の「あいだをどのようにつなぐか」を積極的に推進ししっかりとした下地を形成していく。
・国内外の姉妹都市などと文化芸術の交流を深めていく活動を推進していく。
○つたえる・たのしむ
・歴史ある市内の文化資源の保存と活用とあわせて、埋もれている資源の丹念な発掘を実施。
・歴史的な景観や構造物を活用した取組みの実施。
・美術館を活用した企画展などの充実。
・公園や城跡など市内の至る所をフィールドとしたアートを展開していく。またレンタサイクルなど他の施策においても、そのデザインにアートを取り入れるなどの関連性を持った取組みを徹底していく。
◇瀬戸内国際芸術祭の取組み
・瀬戸内海の島々にアート作品を製作して、それらを船で移動しながら鑑賞してもらう取組みで、文化芸術と観光を合わせた地域興しの取組み。最近は小豆島に移住してくる芸術家の方も多く一般の人を合わせた移住者が増加しているなどの背景もあり、瀬戸内の島を自由に巡る芸術祭の開催期間を春夏秋の三シーズン計画し来場者に期待しているとのこと。
◇高松市は文化・芸術の下地が歴史的にしっかりと育まれているとまずは感じました。文化芸術を愛するということは人々の生活や気持ちにある程度の裕度がないと育まれては来なかったと思いますし、具体的には身近にそういったものと触れ合う機会があることや温暖な気候や地形など様々な背景がプラスに作用してのものであろうと思いますが、素晴らしいことだと思います。こういったベースを更に生かし伸ばしながら街づくりや市の施策、教育に展開していこうということですから、計画をお聞きしていてとても大きな将来的な広がりを感じました。同様の取組みは八王子市では少し無理があると感じつつも、ひとつのことをテーマに取り組んでいく施策展開は見習うべきものがあると強く感じました。あれもこれもと行うのではなくその土地の歴史や住んでいる人の資質をよく理解した上で地域特性にあった方向から取組むことの必要さは、わかっていても中々徹底できないものですが、高松市の取組みは一本しっかりとした筋が通っていると感じました。将来的に街並みなどにも進展が見られることでしょうから、こういった取組みは来訪者にも次に訪れた時にはどのようになっているのだろうか、と期待を抱かせるものにもなります。文化芸術は大切なものという認識はどこの自治体にもあるでしょうが、これを具体的な施策に一貫性を持って展開できているところは珍しいのではないかと感じました。
◇宇和島市が実施している移住促進施策の「空き家利用の田舎暮らし」の詳細について伺いました。人口減少時代における空き家対策は日本全国での課題となっているため本施策を視察に選定いたしました。
◇ご対応いただいた方
宇和島市産業経済部商工観光課
:兵頭 利樹様、片岡 紘志様
宇和島市御槇区地域おこし協力隊
:渡邊 誠様
・愛媛県では松山市、今治市に次いで宇和島市という位置付けである。平成17年に旧宇和島市と周辺3町が合併して現在の市の形となっており、市の全面積の7割が山間部という特徴を持つ。
・合併の頃は9万2千人の人口があったが現在は8万2百人と10年で1万1千人が減少してしまった。一年間に1千人が減少している計算となる。
・第一次産業に従事する人が2割。リアス式海岸を利用した養殖業で鯛の生産量は日本一、また真珠の養殖も日本一。
・人口に関しては就職先が無いことなどから高校を卒業するとその8割が市外へ転出してしまう現実であるとのこと。
・宇和島市が行っている移住関連施策は、①移住情報を紹介するホームページの運営 ②ホームスティによる農業体験 ③空き家バンク紹介制度 ④教員住宅の空き物件を活用した移住体験住宅 があり、国の地方創生先行型交付金を活用した事業として展開している。
・その他に「地域おこし協力隊」による取組みとして空き家を活用したシェアハウスの運営などを行っている。
・宇和島市は柑橘類の農家が多く栽培が盛んなため、市内柑橘農家に希望者を受け入れて農作業と田舎暮らしを体験する取組みで、三泊四日で農家民泊。参加者の負担金、報酬はゼロで民泊の費用と食事は農家が負担。参加者負担は現地までの交通費のみ。
・平成20年度から実施し当初25名の参加者がここ数年は60名程度と増加しており、参加者からの移住者は2名の実績がある。
・市の移住ホームページにて市内の空き家を紹介・情報提供する「宇和島空き家バンク」制度を実施。
物件所有者の申請に基づいて物件を登録し、物件の見学までを市職員が対応するが、契約に関しては市の仲介は無し。
・移住希望者が1ヶ月~3ヶ月の期間で宇和島暮らしを体験できる住宅の貸し出し事業。
家具、家電つきでひと月4300円~14000円。光熱水道費は事故負担。
・田舎暮らしの10箇条・・・これがとても興味深いと思いました。
<その1> 田舎の給与水準は都会の半分
収入は良くて三分の二、普通で半分、悪ければ三分の一になります。お金が必要なら都会に住みましょう。
<その2> 簡単に住まいや土地は手に入らない
田舎では知らない人に貸したり、売ったりしません。とにかく、信頼関係が大事です。フレンドリーに誠実に、地域住民と知り合いになるのが一番です。
<その3> 買ったら売れない
住まいを購入する時には慎重な判断が必要です。気に入らなくなったとしても転売は非常に難しいと思った方がよいでしょう。リスクを負いたくないなら貸家がお勧めです。
<その4> 人は少ないけど人間関係は濃い
田舎はみんな知りあいです。おせっかいな人もいっぱいいます。人づきあいは避けて通れません。
<その5> 地域への関わりが必須
自治会への加入、行事への参加、消防団やPTAなど、とにかくいろいろなところへ関わらなければいけません。田舎は相互に助け合って生活をしている世界です。地域とかかわりたくないのなら、田舎はお勧めしません。
<その6> 田舎は不便
買い物や病院などが不便なところがあります。お金を払えば必要なサービスが受けられるわけではありません。適度なところで妥協も必要です。
<その7> 田舎はワイルド
トイレはいまだに汲み取りのところも多いです。まわりに自然がいっぱいということは、部屋には虫がいっぱい入ってくるということです。快適で衛生的な生活を過ごすのは難しいところもあります。
<その8> 車は必須
公共交通機関が発達していません。都会なら駅のそばは一等地でしょうが、田舎は駅が近くてもなかなか列車が来ません。
<その9> 田舎は生きがい探しが大切
田舎に行くと、都会とは違った時間の流れ方があり、時間をうまく使い、時間を活かせるようになることが大切です。
ご自身の余暇や趣味を活かせる地域を探すことをおすすめします。
<その10> 新規就農は至難の道
新規就農には3種の神器が必要です。技術、資金、土地です。よくよくご検討のうえ取り組んでください。なお、資金を突っ込んでも自分の代では回収できないと思った方が良いです。
それでも田舎には都会にはない良さがあります。田舎暮らしが素晴らしいものになりますよう私共が応援いたします。四国のすみっこ宇和島へ来さいや。
・田舎暮らしにあまり希望と期待を持たないよう、それでも来ていただける方をお待ちしている、ということ。
・市の調査員(ゼンリンに調査委託)によって調査を実施し5段階に分類。
市内全体で4000件の空き家が存在。倒壊の危険があるものもあり、それについては別の対策を講じている。
・若い人は一旦宇和島市を離れてしまうが、戻って来たいという気持ちがある人は多く、IターンUターンは多い方だとのこと。
・空き家の提供に関して、市外に転居してしまった人でも「仏壇があるから」「荷物が置いてあるから」いった口実で空き家として手放そうとしない人が多いのが実態。
実際に御槇(みまき)地区では空き家30件のうち2軒しか貸してくれるとの返事がもらえなかったという実績もある。
・今まで移住してきてくれた人は定年退職した60歳以上の方が多かったが、近年少しずつ若い方が増えてきた。できるだけ若い方に多く移住していただきたい気持ちはある。
◇全国的な高齢化の問題は周辺部ほど深刻なことは万人の知るところで、宇和島市の実態をお聞きしてその実情がかなり深刻なことを感じました。宇和島市といえば全国高等学校野球選手権(甲子園)の常連である宇和島東高校など若い力もあると思っていましたが、就職先が無いということでそのほとんどが市外に出てしまっている現実は痛々しくも感じました。そういった背景の中でも移住してくれる方をなんとか増やしていこうという一連の取組みには共感できるものがありましたし、報告の中に掲載した「田舎暮らし十箇条」には田舎暮らしの現実を包み隠さず示しており、それらを覚悟で来てくださいという何とも人間味のある施策です。都会の生活に馴染んでしまった人が田舎暮らしへの憧れだけで移住してみたが続かないといった事例を随分経験されているのだろうと推測します。
同時に実施している空き家対策では、空いているのだから手放して新たな利用者へ、という方程式が簡単に成立しないもどかしさを感じました。
訪れた日が好天に恵まれた穏やかな日だったこともあり柑橘類が名産であるこの地がとても温暖で暮らしやすい気候であると実感しました。
この地が再び活気あふれる町になる日がくることを祈らずにいられない、そんな気持ちになりました。
国は地方再生と簡単に一言で言いますが、地方の現実は相当深刻なものがあると改めて感じた次第です。
◇松山市のホームページを拝見すると元気がみなぎっているように感じます。松山市に対する信頼や好感度を上げようという取組みが様々に紹介されています。この原動力や方法、意識の持ち方など、都市戦略部の取組み方について視察させていただきました。
◇ご対応いただいた方
松山市シティプロモーション推進課:千海 克啓様
◇都市ブランド推進事業
・各都市のイメージについて民間の調査では、2人に1人は松山市と言われてもそのイメージが湧かないという結果になっていた。この結果を観光、温泉、昔ながらの街並み、人口、面積などの類似した他市と比較したところ、イメージ想起率で別府市30位、金沢市34位に比較して松山市は158位と大きく水をあけられていた。原因として道後温泉と松山市の名前が違うことや四国という土地柄などがある。これをもう少し掘り下げたところ、若年層から40代の認知度が低いとわかった。60代になると他類似市と同等程度にはなるが、何か手を打って認知度が低い層へのアピールにて改善する必要性を感じた。
・全国の人から選ばれる都市を実現するということは、そこに住む住民にとっても住む土地への愛着や誇りにつながるため、都市イメージと認知度を高めるための取組みを総合的・戦略的に推進することとした。
・都市イメージを形にしていく取組みとして、松山の魅力をみんなでみつめなおすことから始めた。市民と一緒になって松山という都市そのものの魅力や価値を高めていき、全国に発信していく活動として「だんだん松山プロジェクト」を開始。
松山市は四国4県の中で一番のんびりしている性格であり、競争というものが今まで苦手であった。また何か一つ秀でているというものではなく様々な良さが混ざりあっているというイメージ。こういったものを特徴にして、またこれからのことを考えて、より若い人を意識した取組みとなるよう展開させていくこととした。
・最近の若い人の特徴として「紙媒体に弱い」「テレビは見ない」「ラジオも聞かない」「スマホは見るものを選ぶ・・気にならないと見ない」、行政マニュアル的なものは当然全く見ないし見ても途中まで。こういった若い人たちに行政の側から歩み寄っていく手法を探る。
・プロジェクトでロゴとメッセージが決定したがこれだけでは世界観が伝わらない。外に発信するにあたって ①認知の低い若い世代に響く伝え方 ②選考の他都市のPR戦略との差別化 ③日本のみならず世界に向けて発信 という課題を設けて検討した結果、松山発のオリジナルアニメーション「マッツとヤンマとモブリさん」を製作することとした。
ただアニメーションを作っただけでは広がらないため、まずご当地出身のタレントにアニメーションに協力してもらうこととした。友近さん(松山市出身)、水樹奈々さん(愛媛県出身)、曲はスキマスイッチなど。また市民エキストラ(アニメなので声の出演)など市民も巻き込んだ取組みも実施。
・海外向けとして6言語の字幕表示も用意した。
・これを、マスメディアを利用して大々的にPRした。またテレビの中継などをしてもらうための市のトピックを積極的にメディアに提供してロケに来てもらうなど、マスメディアを最大限活用している。
・インターネットなどの情報発信源も最大限に活用。
○市長がメディア系出身で、報道・映像関係の世界とのつながりが強くあったことも追い風となった。また、市長の本気度が市の職員に浸透し、また従来の公務員の基準では市長をクリアできないという風潮も浸透し、皆が真剣にやる気を持って取り組んでいるとのこと。
・私個人として松山市は好感を持っていた町ですが、言われて見れば若い頃には松山市と言われても四国の何処に位置しているのか、名産はミカンくらいしか思い出せなかったなと思います。
ここ数年何度か訪れる機会がありますが、行くたびに街が元気に明るくなっている印象を受けていたのは本日教えていただいたような取組みはもとより、行政と市民、そして若い人たちまでが皆で松山に力を込めていたからだと改めて理解しました。
私の住む街は元気がないとか、近隣に比較して衰退しているのではないかとか、市の職員が悪いとか、議員が悪いとか・・そういったことを言う人たちが沢山いますが、それでは街が元気になるはずもないですね。特にそういうことを口にする人たちに当事者意識が全くないことがダメなことなのでしょう。松山市の取組みは市民や学生など皆が前向きに取り組んでおり、こういう形を作れるようなリーダーシップを市長がぐいぐいと発揮しています。手法以上にそういった気持ちの部分で見習うべきことが大いにあると強く感じました。