視察年月日・・平成27年7月7日~7月9日
視察場所、及びテーマ
①北海道札幌市 ・・大通り公園と資料館を活用したまちづくり
②北海道有珠町 ・・火山災害と防災の取組みについて
③北海道千歳市 ・・防災学習交流センター「そなえーる」
◇八王子駅南口の医療刑務所跡地利用の検討会では、ここを市民に親しまれる場所にすることを目指した検討がされています。この検討会の報告では「資料館と公園が相応しい」というものが出されているため、国内で同様の形態であり有名でもある大通り公園と資料館を参考に見させていただくこととしました。
(歴史)
・1926年(大正15年)に司法省札幌控訴院庁舎として竣工。
・昭和22年、司法制度改正により札幌高等裁判所となる。
・昭和48年、用地交換で札幌市に移管され、札幌市資料館として市民に開放される。
(建物の概要)
・敷地面積 7140 ㎡
・建物延面積 1637 ㎡
・総工費 現在の価格で約22億円
(資料館の活用)
・おおば比呂司(札幌出身の画家・漫画家)記念室・・3室
・刑事法廷展示室
・まちの歴史展示室
・ラウンジ
・ミニギャラリー・・6室あり
・交流ギャラリー・・1室
・研修室
◇市民を呼ぶために
・永年的な展示物は一度見たら二回目も来ようとしてくれる市民はいないと考えているため、まちの歴史展示室においても数か月単位で展示物を入れ替えたり、ギャラリーを多く用意することで市民の方の小さな絵画の個展などを入れ替わり開催してもらうことで、市民が何回も足を運んでくれるよう知恵を絞っています。資料館という名前ですが、実は資料的なものはほとんどないということです。
・刑事法廷展示室は学校の授業に開放することで、子どもたちや学生たちに親しみを持ってもらえるようにしています。
・ラウンジは経営会社に内部を魅力的なものにしてもらうようにしており、現在は多数の若い女性スタッフがアイディアを出しながら内装やオブジェなどを工夫しています。
・大通り公園地下通路に設置したアートギャラリーを含めて札幌で活躍するアーティスト(芸術家)を中心に支援しており、資料館のイベントカレンダーは一年間の概要を市民にアピールしています。
◇大通り公園について
・1871年(明治4年)札幌の都心の火防線として設けられた空間。
・都市公園告示は昭和55年6月で、種別は特殊公園。
・面積 78901 ㎡ 全長1.5km
◇大通り公園の特記事項
・有名なテレビ塔がある区画から資料館がある区間まで13区画あり、それぞれにテーマを持った区画となっています。花壇がよく整備されておりイベントでも花フェスタやライラック祭りなど花や木をテーマとしたものが定期的に開催されています。2区画に一つの間隔で公衆トイレの配備がされており、ところどころにベンチや水道が配置され、それらの配置は大変よく考えられていると感じました。
・とうきびワゴンなどの出店があり、7月下旬からは公園内を大々的にビアガーデンに変えてしまうなど、食の部分でも工夫がされています。
・地下鉄駅近くは公園の外周部分の一部を駐輪場に変えているなど、市民生活のためになる施策もしっかり取られています。
・噴水があり、子どもたちが遊べる施設にも水が流れるなど、水も上手に使っていると感じました。
・全体的な管理・清掃は指定管理者が実施していますが、市民ボランティアによる清掃が多く実施されているということで、公園内や公園周辺道路にもゴミは全く落ちていませんでした。素晴らしい市民慣習であると感心しました。
・公園外周には街路樹が相当数植樹されているが、種類が多彩であり、しっかりと間隔を置いて植樹したため、どれもとても綺麗な樹形に育っています。一本一本が素晴らしく綺麗で、ハルニレやポプラ、プラタナスなどは30mを優に超える高さの大木に育っており、一本一本が存在感があり素敵な風景を醸し出しています。
・八王子市の医療刑務所跡地利用検討会の報告に、資料館と公園というものが高得点で記載されていました。それを拝見した時、全くイメージが湧かずに、つまらないものを作ってしまうのではないかという少しがっかりした気持ちになりました。そのことが頭にあり今回の視察地を選ばせていただきました。過去に個人的にも札幌の街には数回訪れていますが、大通り公園は当然そこにあるものだという認識で、あまりしっかりと見たことがありませんでしたが、詳細に見させていただきこの存在感は素晴らしいものであると改めて感じました。
資料館に関しては、恒久的な展示物だけでは人は来ないため、市民の方々に何度も足を運んでいただくために様々なアイディアを注入しており、大変ご苦労されているという印象でした。絵画などの個展を開ける小さなギャラリーを計7部屋用意して、他の場所よりも安く使える値段設定にしているところは、自分たちで催し物を考える必要がなくとてもよい案だと感じました。八王子市にはギャラリーは少ないですから、こういった場所は市民に必ず喜ばれます。また八王子市は値段設定に関して「周辺の民間同施設の営業を圧迫しないこと」を前提に決して安価な設定にはしないことを私は未だに不満に思っていましたが、行政のものの方が市民に使いやすい値段設定の自治体を発見したことで今後の八王子市の価格設定について再考するきっかけが出来たと思っております。喫茶においては若い人たちにその運営から装飾などを割合自由に行わせていることが中々興味深く、若い方々の明るさが生かされており大変素晴らしい試みだと感じました。
大通り公園は広大でしたが、まず関心したのはゴミが落ちていないことです。これは指定管理者が清掃する以上に様々な市民ボランティアの方々が毎日ゴミ拾いや花壇の整備をしてくれることだそうで、更にゴミを捨てる人もいないということで、市民に愛された公園だからこそのものです。また街路樹が大変きれいなその樹木本来の形に育っている様は雄大で素敵です。プラタナスやハルニレ、トチノキなどどれも30m超の雄姿でありました。芝生や花壇もきれいで、こういった空間で多くの子どもが遊び、市民が散歩し集う様はとても裕福な時間を過ごしている実感がありうらやましく思いました。
前述した八王子市の計画はどのようになるのかはわかりませんが、もしも公園にするのであれば駅前からの交通路を変えてしまい、駅からずっと公園にするくらいの思い切った施策であるなら、今後市民に憩いの場として愛され続ける施設が作れるのではないかと思いました。
大通り公園は十分に参考にしていただきたい、とても充実した公園だと再認識いたしました。
◇ここのところ日本全国的に火山活動が活発化している感があります。東京には活火山は島部にしかありませんが、近隣の火山活動が全くの無縁だとは言えません。15年から20年の周期で噴火を繰り返している有珠地域の火山災害の経験を勉強させていただき、火山のみならず自然災害対策を考察する一助とさせていただくため訪れました。
・昭和18年から20年に掛けて発生した有珠山噴火のひとつとして、突如平坦な畑が隆起し噴火が起こり昭和新山が誕生しました。
・その当時は太平洋戦争の真っただ中であり、一般には食糧さえなく、フィルム・紙・衣類など全く事欠く中で、当時洞爺湖付近の郵便局長であった三松正夫氏は創意工夫を重ねてこの活動の一部始終を調査し記録に残しました。
・記念館にはそれらの観測記録が保存されている他、その後の昭和新山の様相が展示してあります。
・噴火し昭和新山を形成するまでの記録はほとんどが三松氏のスケッチや測量メモであるが、単身で測量器を使いながら綿密に地盤の隆起の様相や標高の変化などを計測した記録は驚くほど正確且つ精密であり驚くばかりでした。フィルムがないため、その記録と自身の記憶を元に描かれた絵が複数枚展示してありましたが、どれも大変精巧な描写がされていました。
・火山学は過去のデータが少なく、未だに発展途上にあると聞いたことがありますが、この三松氏の観測記録は学術的に大変貴重な記録であります。
・有珠山は20世紀の100年間で4度も噴火活動が観測された、世界的に見ても活発な活火山です。
前述しました昭和新山も有珠山火山帯の一部で、この噴火は1943年(昭和18年)末から1945年(昭和20年)に掛けてです。
次の噴火は1977年から1978年に掛けてで、死者2名、行方不明者1名の人命の被害もありました。
現時点で最新の噴火は2000年(平成12年)の噴火でありますが、この時は火山性地震の分析や過去 の被害の検証がきちんと行われており、それらを住民に事前周知し徹底されていたため、近日中の噴火が予知され気象庁から緊急火山情報が出されたことを受けて、壮瞥町・虻田町(当時)・伊達市の周辺3市町では危険地域に住む1万人余りの避難を噴火までに実施しており、この事例は日本で過去に唯一のものであるとのことです。
・過去の噴火の経験から、有珠山には350年前から噴火の記録があり、そのデータ蓄積の多さから比較的「噴火予知のしやすい火山」であること、噴火を繰り返す周期が短くかつ一定で、地域の住民の多くは前回、前々回、そのさらに前の噴火を経験した人、あるいは年長者から伝え聞いたことのある人もいること、「温泉など、有珠山の火山活動による恩恵を受けて暮らしているのだから、30年に1度の噴火は当然受け入れなければいけない」という意識も高く、周辺市町のハザードマップの作成や普段から児童への防災教育がなされるなど、地域の火山に対する防災意識の醸成が進んでいます。
・有珠山火山科学館では、こういった過去の有珠山噴火の記録を展示するとともに、火山現象の展示、1977年噴火の体感や2000年噴火の映像などを実施しています。
・有珠山は30年から35年を周期に噴火を繰り返している活発な活火山です。近年、御嶽山や箱根、阿蘇、桜島など全国各地で火山活動が活発化しています。書店に行き調べますと火山学の書物は絶対数が案外少なくこの分野の研究は未だ道半ばなのだと実感します。そういった中で有珠山の噴火の記録や防災対策を改めて拝見しますと、定期的に噴火を繰り返していることを研究にうまく利用しており、昭和新山の三松氏をはじめ文献や観測記録がきちんと残っていることから、今後の火山噴火予知を含めた火山学の進展や防災計画の充実に生かされるものだと思います。2000年の噴火予知では住民が全てその指示に従い噴火前に避難が完了していたというお話は、他の災害対策においても十分に参考にすべき事例だと感じました。日常生活の中で起こりやすい自然災害はその地域ごとに異なりますが、住民への事前教育をどのようにしたらよいかなど、有珠山の記録からは学ぶべきことは多くあると感じました。
◇市民のみならず防災関係機関の防災力向上のために設置されたとお聞きする千歳市防災学習交流施設を見させていただき、八王子市の防災力向上やこういった施設整備への参考にしていただくため訪れました。
・事業としては平成17年に補助事業として採択され、平成22年度に完成したものです。
・整備総面積 8.4ha、総事業費21億円
・管理・運営は市の直轄管理となっており、勤務員は9名程度です。
・建屋内は会議室など講習ができる部屋の他、様々に実体験ができる施設が備わっていました。
地震体験コーナーでは過去の大地震の揺れを体感することができますが、地震体験車と決定的に違っているのは、体験スペースが広いのと人が立った状態で(つかまる棒があります)体感できることで、実際に体感させていただき立っていられないという状態が怖いものだと実感しました。
煙避難体験コーナーでは室内に煙が蔓延した場合の避難を体験しますが、上部空間に煙が充満している時にかがんで歩くと足元しか見えず、これほどまでに視界が狭まってしまうのかと改めて実感しました。この際は天井にある「避難口」の表示は全く見えず、避難誘導表示は足元もしくは地上から30㎝程度にあるのがベストではないかと初めて実感しました。
屋内訓練室はバレーボールが一面分できるくらいの広さの体育館のような場所ですが、ここでは避難具を使用した避難訓練を行うことができます。実際に避難用ロープを使用した避難と、避難用ダクトを使用した避難を実体験させていただきました。避難具は使ってみないといざという時には手間取ってしまうだけだなと改めて実感しました。こういった普段は目にすることもない器具はできるだけ多くの方が使って経験しておくことが大切だと感じました。
その他に予防実験コーナー (天ぷら油からの出火、コンセントからの出火を見ることができるもの)、通報体験コーナー、防災情報検索コーナー。
・屋外には広大な防災訓練広場があり、ここでは大々的な市民参加の訓練や消防による訓練などが実施されるということです。他に救出体験広場、消火体験広場などがあります。
・消防の方々もこの施設を利用して訓練を実施しており専門的なロープ訓練等などが設置されています。
・また実際の災害時にはこの施設全体を災害対策の拠点として機能させるため、ヘリポートや防災備蓄庫が設置されております。
・様々な体験コーナーはそのひとつひとつがよく考えられており、大変充実していると感じました。一度体験しておかないと緊急時に対応できない、これは当然のことなのですが、なかなか全てを経験しておく機会を得ることは難しいものです。この施設は小中学生の学習の場としての利用が多いということでして、それもとても良いことだと感じます。また屋外の広大な防災訓練広場は訓練だけではなく災害時の対策拠点となるということで、このことを市民の方々が認識することで「ここまで避難出来れば安全だ」という認識を浸透させることでスムーズな避難が可能となるため、これも素晴らしい施設だと思います。広大な千歳市だからという部分もありますが、何ともうらやましいほど充実した施設でした。ここまでは無理でも様々に少しでも多くの市民に実体験をしておいていただく機会の充実策は真剣に検討しなくてはならない課題だと改めて認識しました。