行政視察報告書
実施年月日:平成26年11月4日~11月6日
視察場所
・大分県中津市・・・中津商店街
・大分県九重町・・・地熱発電
・熊本県熊本市・・・赤ちゃんポスト
1.大分県中津市「中津商店街・・商店街の活性化」
◇大分県が主催した平成26年度街なかにぎわいプラン推進事業の学生部門において中津東高校のプランが優秀賞に選ばれたという記事を拝見しました。この記事によりますと本年9月より商店街において何か具体的な活動がされたようで、その効果をお聞きしたいと考えました。また商店街から徒歩圏内にはNHK大河ドラマ官兵衛で有名になった中津城があり、これも商店街の活性化に寄与しているのではないかという観点から、中津商店街の現状と取組みについて視察することとしました。
○中津商店街の現状(現地視察と笹尾会長さまとのお話から)
◇ご対応いただいた方
中津商店街 連合会会長 中島 秀夫さま
中津商店街 日の出町商店街会長 笹尾 辰治さま
◇中津商店街はJR中津駅前から中津城方向に延びるアーケードの設置された商店街です。しかし視察当日の11月4日月曜日の14時前後はほとんど人通りがありませんでした。
駅前やその周辺地域の歩道などは綺麗な街並みが整備されていましたが、ここも同様にほとんど人通りがありませんでした。
後でいろいろと散策してみて分かったのですが、商店街から10分弱の距離に位置する中津城には多くの観光客が訪れていました。
◇大河ドラマの影響と現実について
・大河ドラマの商店街への影響は残念ながら無いと感じているそうで、その現状は厳しいものがあるとお話しくださいました。
観光客のほとんどは大型バスで直接中津城に来て、団体専用のお店で昼食をとってそのまま去ってしまうため、こういった観光客が商店街に流れてくる現象は起きていない。
中津城の方では「中津城の入場券を持って商店街で買い物をしてくれたら100円バックする」というキャンペーンを行ってくれている。また官兵衛のお土産については、大河ドラマ終了後1年間は残してくれることとなっているとのことでした。
◇中津東高校の優秀賞をもらった取組みについて
・中津東高校が商店街で演奏会などを行う時は、賑わいは出ると感じている。またお弁当は売れる。高校生たちは出番が終わると商店街を手伝ったりしてくれる。
しかしイベントそのものは3時間程度が限界だと感じている。
◇あきんど市場
・イベントとして実施しており、市・商店街連合会などから補助金もいただいて実施している。
イベントも同様のものの繰り返しでは3年程度で訪れる人、商売人ともにマンネリ化して飽きてしまうようだと感じている。
◇地元の名産など
・大分方面の名物として唐揚げがあり、一時盛り上がった時期はあった。その時は商店街に唐揚げを扱う店が何軒もできたが、盛り上がった時期は3年程度だったと記憶している。
◇商店街の現状
・現在は昼の商売はかなり衰退してしまい、新たに商店街で店を開くのは夜の店ばかりで、夜はそれなりに人通りはある。
・昼間の店で残っているところは昔からのお客さんをしつかりつかんでいるところだけで、新たなところは飲食でしかやっていけないのではないかと感じている。
・アーケードは20年以上経過しており、商工会議所は空き店舗調査や店舗改装の補助金制度なども実施してくれているが、店舗や土地を持っているいわゆるお金持ちの方々の理解を得たりすることが大変難しいと感じている。
・商店街で商いをする人たちが高齢化してしまっていることは問題だと感じている。昔は青年部を結成したりしていたが現在青年部は無い。
・商業をやる側が楽しくない状況は活性化しないと感じており、一軒一軒が輝いている商店の集まりという形が理想だと思って取り組んでいるが、遠い状況にあると感じている。
○所 感
◇笹尾さまのお話しは、疲弊している現状をなんとかしたいと日々取り組んでおられる経験から発せられるもので大変説得力があり勉強になりました。ひとつひとつのご意見や実体験はそのまま八王子市につながる要素が多くあると感じました。視察に訪れた日も商店街に隣接する市道では歩道の改良工事が実施されていましたし、冒頭に述べたとおり駅から城までの道は結構整備されていました。行政の取組みと商店街がうまくかみ合っていない印象を受けてしまいました。また城には当日も沢山の観光客が訪れており、この人たちを商店街に向ける方法があったら随分変わるのではないかとも思いました。まるで高尾山と八王子市内の関係のようで、これも他人事ではありません。笹尾様がおっしゃられた「一軒一軒が輝いている商店の集まり」「若い人たちへの取組み」そして「年配者とその土地や建物の所有者との関係」ということが重く印象に残りました。今までの視察では好事例ばかりを参考にと見てきた記憶がありますが、こういった苦悩している方のお話しをお聞きする機会は大変ためになると感じました。
2.大分県玖珠郡九重町「八丁原地熱発電所」
◇再生可能エネルギーの利用が社会的注目を浴びている中、営業運転の実績が十分にある地熱発電所として九州電力㈱の八丁原発電所を視察し、地熱発電の実態について教えていただきました。
○八丁原発電所について
◇ご対応いただいた方
九州電力㈱八丁原発電所展示館 店長 古賀 純市さま
◇八丁原発電所の概要
・発電能力 11万キロワット(1,2号機があり共に5.5キロワット)
※当日は発電所から電気を送り出す構内連携ケーブルの設備更新工事中のため停止中
・発電方式 地熱発電 一部低温の蒸気を利用するバイナリー発電(2000キロワット)あり
・営業運転実績
1号機 昭和52年~
2号機 平成 2年~
◇地熱発電に関する特記事項
・八丁原発電所の計画は1949年、現地調査開始が1953年、1号機運開が1977年であり、計画から調査を経て運転開始まで30年近くの年月を要している。地熱発電に適した場所の多くが国定公園などにあり、一部法律が見直されたがそれでも大変に工事のやりずらい場所に位置する可能性が高く、営業運転までの期間は相当長くなる傾向にある。
・地熱で温められた蒸気を取り出す蒸気井と呼ばれる蒸気の井戸は、八丁原の場合で浅いもので760メートル、最深のもので3000メートルとなっており、常時30本程度の井を確保している。
この井に使用するパイプ(鋼管)内には使用しているうちに蒸気に混じっている鉱物が付着してしまい段々と系が細くなってしまうため、次々に新しい井を掘削して準備しておく必要がある。
鋼管の太さは約300mm程度あるが、50mm程度の穴になってしまっている。
・地下資源としてある地熱貯留層に溜まっている蒸気はどの程度の量でいつまで出続けるのかははっきりと断定できない。蒸気を出来る限り長く持たせるために蒸気を取り出す蒸気井の近くに発電し終わった水を地下に戻す還元井を掘削して地下に水(90℃程度)を戻すことを行っている。
○所 感
◇調査に要した費用は4~5億円、調査から営業運転に漕ぎつくまでに25年、建設費用は教えていただけませんでしたが送電設備などを含めると数百億円か1千億まで超過しているのかと推測し、それで5.5万キロワットを得ていることから考えると決して安価な発電方式ではないと感じます。ちなみに火力発電所1基あたり50万キロワット以上、原子力発電所1基あたり100万キロワット以上と比較するといかに小さな出力であるかということです。燃料費はかからないとは言っても蒸気井が詰まってしまうことを考慮して常に新しい蒸気井を掘削し地上の配管も含めて準備する作業を繰り返していなくてはならないことから設備費用が掛かるうえ、いつまで出続けるかということが未知な部分があり設備投資分をペイ出来るのか、不透明な中での運転になります。1キロワット当たりの発電単価に関しては教えていただけませんでしたが、そういった利潤とかをある程度度外視した中で環境に優しい新たなエネルギーとして取組む種類のものなのだろうと感じました。地熱発電は太陽光や風力と違い、割合大きなタービンを回すことから安定してある程度大きな電気を得ることができることと、昼夜や天候に左右されずに発電し続けられることから、この電力品質の良さが他の自然エネルギーの発電方式と決定的に違うことであり、このことが電力会社が投資した一番の理由であると理解しています。再生可能エネルギーと簡単に口にされる時代ですが、その発電方式ひとつひとつに難しい課題があると現物を見て改めて感じました。
店長さまとの懇談では地熱発電以外にもタービンの構造などについても詳しく教えていただく時間があり、地熱発電に止まらず発電という分野全般に渡って見識を高めることができました。
3.熊本県熊本市「赤ちゃんポストと行政の関わり」について
◇全国的に有名な「赤ちゃんポスト」とよばれる乳幼児を育てられない親を助ける慈恵病院の取組みは一見すると素敵な取組みに感じますがここを巡る報道は案外多くその実態についてと、ひとつの病院の取組みとは言え人権や人の命に関わる問題も多いと推測し、それらに対する行政の対応についてお聞きしました。
○赤ちゃんポストと熊本市の関わりについて
◇ご対応いただいた方
熊本市健康福祉子ども局子ども支援課 主幹兼主査 本巣 由実子 さま
◇ゆりかごが設置されるまでの経緯
・平成18年11月9日、熊本市島崎にある医療法人聖粒会(慈恵病院)が進める「こうのとりのゆりかご」計画が明らかになる。
慈恵病院では胎児や子どもの命を守る取組みを早くから行っていたが、破棄されて命を落とす新生児や人工妊娠中絶で失われていく命を救いたいという思いから、ドイツの取組み等を参考にして、匿名で子どもを預かる施設の設置が計画されたもの。
・ゆりかご設置に際しては病院施設の用途・構造の変更を伴い、医療法上の許可が必要とされたため、平成18年12月15日に慈恵病院が医療法に基づき建物の変更許可申請を熊本市に提出した。
熊本市ではゆりかごの許可が現行の法律上の問題は無いか、国や熊本県とも協議を重ねながら「刑事法上、保護責任者遺棄罪に当たらないか」「児童福祉法や児童虐待法に反しないか」を中心に許可の是非について検討を実施した。
最終的に国が平成19年2月に「直ちに違法と言えない」との判断を示したため、熊本市は平成19年4月に許可した。尚その際「子供の安全確保」「相談機能の強化」「公的相談機関等との連携」の3つの留意事項を遵守するよう条件を付した。
◇ゆりかごの仕組み
・ゆりかごの設備と運用 ゆりかごの施設は、平成23年1月に慈恵病院の新病棟(産科・小児科棟)が開設されたことに伴い、当初の設置場所から同年1月23日に移転し、産科・小児科棟(マリア館)南側に子どもを受け入れるための窓口が設置される。
屋内の保育器内は一定の温度に保たれており、そこに子どもが預け入れられると、子どもの安全確保のため、扉が自動的にロックされる。同時にナースステーション及び新生児室2か所のブザーが作動し、そこにいる職員が直ちに子どもを保護することになっている。
慈恵病院は、子どもを預け入れる前に相談を促すために、ゆりかごへの経路上には親に相談を呼びかける内容の案内板が設置されている。また、ゆりかごの扉の横には、インターホンとともに「赤ちゃんの幸せのために扉を開ける前にチャイムを鳴らしてご相談ください。」との表示板が設置されている。加えて、より子どもを預け入れる前の相談に繋がるように平成 25年7月にそれぞれの看板には、「秘密は守ります」と相談の機密性について追加表記された。
◇特記事項
・熊本市は平成19年4月に許可した際の3つの留意事項である「子供の安全確保」「相談機能の強化」「公的相談機関等との連携」が遵守されているかについて3ヶ月ごとに検証している。
・現在(26年3月末まで)の預けられた赤ちゃんの人数は101人
最近の問題点として身体に異常がある赤ちゃんの比率が増加していることがあるとのこと。
本年10月には赤ちゃんの遺体が入れられていた事件が発生してしまった。
・市では赤ちゃんの将来を考えて、病院になるべく預けに来た親と接触できるように努力してもらっているが、病院側の本音のスタンスとしては、赤ちゃんを預けに来た親を追いかけると赤ちゃんを預けに来てくれなくなり、その結果命を助けられないのではないか、という所があるようだ。市は育っていく末のことを考えて何とか親との接点を持っておきたいと考えているため、このあたりの兼ね合いが難しいところである。
・預けられる赤ちゃんのうち親がわかった割合は77%、不明が23%。
親がわかったうち、県内(熊本含む)が33件、45件は県外で、関東は19件と多い。
自宅で出産してそのまま自家用車で関東から預けにきたという母親の例もあったとのこと。
・ゆりかごがあるために自宅での出産が増えてしまうのではないか、という悩みも持っている(本巣主査をはじめ熊本市の関係職員の方)
・ゆりかごがあったから赤ちゃんの命が救われたという実証はとれていない。ゆりかごに預けられた赤ちゃんはゆりかごが無かった場合はどうしたのだろうか、ということはあくまで想定でしかないため、このあたりが難しいところだと認識しているとのこと。
・預けられた赤ちゃんは、乳児院や養護施設に行くが、身元が分かっている子どもはなるべく親に返したいと考えているし、親の地元の児相に引き取っていただく。身元不明の子どもは里親の確保などを行っているが血液型のマッチングなどは行っていないため、今後子供が大きくなっていくに従って、自らの出生のことをどのように伝えていくのか、といった他の難しい問題を抱えていると認識している。
不妊治療など子どもが欲しくてもできない方に検討いただく方法を考えている。
・薬師丸ひろ子が主演で赤ちゃんポストを扱ったドラマがあり、このドラマ以降、慈恵病院への出産に関する電話などによる相談が急増した。相談は全国からあり8割は県外。
市でも相談窓口を開設しているが、こちらへの相談は少なく、病院と行政とでは相談のしやすさに大きな差があるのかも知れない。
・国レベルで3ケタ番号(警察や消防などと同じ)で相談窓口が開設できないかと考えている。現在熊本市長が国に要請している。
・相談窓口に関しては他にも妊娠検査薬の袋に相談窓口の電話番号などを記載できないか、など検討している。
○所 感
・こうのとりのゆりかごが慈恵病院で検討されて導入された頃には全国的に大きな話題となったため存在はよく知っていましたが、病院の事業に関する許可ですとか預けられた赤ちゃんの戸籍の問題、更には子どもに育っていく上での施設の問題など、行政が関わっている事項は多いのだろうと推測してお話しをお伺いに行きました。お話しをお伺いして、まず、命を預かる問題ですから予想以上に深く難しい課題だと感じました。赤ちゃんの命を救いたいと純粋に考えた病院は素晴らしいことだとは思いますが、その子どもの将来に渡って背負わなくてはならない問題はあまりに多く、またその子どもたちの命を預からなくてはならない行政の責任は大変に重いものがあると感じました。これは一つの地方行政として行っていくには負担が重過ぎて、国レベルで考えなくてはならない課題ではないかと私は思います。
赤ちゃんのその時の命は救えたけれど、その後80年生きていくその子の人生をどのようにフォローしてあげられるのかということは綺麗ごとでは済まされない課題が山積しています。現在は事業が始まってから4年目ですが、本巣主査はこの子たちが10歳、15歳と成長していくうちに発生する新たな問題も懸念してらっしゃいました。幼少期から思春期、大人へと成長していく過程は普通の家庭で育った子どもですら様々な課題があるのですから、未だ予測できない課題が発生することは容易に想像ができます。
妊娠相談の充実に関しては私たちも協力できることですから、熊本市長が国に訴えている三桁番号の相談窓口開設は協力していきたいと考えます。次の議会での提出議案等として検討したいと考えます。出産、子育ての課題に関しては人の命・人生という最重要課題ですから、全国的な活動にすべきであり、こうのとりのゆりかごの現状と抱える課題については多くの自治体や議員、国民の方々に知ってもらいたいと思います。ここに預けられた子どもたちが傷つくことの無いように気を配りながら、また救える命は守りながら、それでもなるべく幸せな出産をしていただけるような課題にするには相当の知恵が必要でしょうが、今回感じた命と人生の重さというものを心に留めながら私たちに出来ることを模索してみたいと思います。