対馬地区3企業団病院との意見交換会
ご案内の通り、対馬地区3公立病院は、離島医療圏組合の解散に伴い、平成21年度より経営主体が、長崎県病院企業団に移行されました。対馬市が経営主体ではなくなったとはいえ、多くの市民の生命と健康を支える対馬地区3企業団病院の現状と将来像は市民の大きな関心事です。また、新統合病院開院を1年後に控えており、3病院の現状と、新統合病院開院後の対馬地域の医療体制やその整備の進捗状況を調査研究すべく、対馬地区3企業団病院に意見交換会の開催を申し入れましたところ、ご多忙にもかかわらず、3病院とも快くご了承いただきました。5月20日は上対馬病院会議室において同病院幹部と、5月23日は対馬いづはら病院会議室において同病院・中対馬病院の幹部及び長崎県病院企業団本部からもご出席いただき、いずれも16時から約2時間の熱心かつ有意義な意見交換会を実施できました。関係各位に改めて厚く御礼申し上げます。
意見交換会は当委員会から予め送付させていただいた質問項目に沿って質疑応答を進めました。その概要は配布資料の通りです。
※下線部分は議会報告で割愛させて頂いた部分です。
【現状について】
①医師や医療従事者の確保の状況、看護師不足の現状と対策(学校への求人の働きかけ修学資金貸与制度等の現状についても含む)
上対馬病院においては、常勤医師4名に加えて、毎日1名対馬いづはら病院から派遣されています。もっと規模が小さい診療所であれば当直等の負担がないため、上対馬病院程度の規模の病院は医師を採用しづらい環境の医療機関であるといえます。そのような厳しい勤務条件下ではありますが、長崎地域医療人材支援センターを通じて関西で面接を行った医師が、今年9月から勤務いただける予定です。看護師・准看護師は合計44名在籍しています。医療技術修学資金貸与制度利用者はほぼ全員が、義務年限までは定着しています。年齢構成を鑑みるとここ数年に生じる退職者の補充が心配されており、即戦力の人材確保も必要です。
次に、中対馬病院においては、常勤医師8名。看護師83名。対馬いづはら病院においては、常勤医師26名。看護師134名です。内各種派遣看護師は2病院合計で14名在籍頂いています。
3病院に看護師が集まりにくい共通する原因の一つは、患者対看護師比率7対1の大病院に流れていること、高度医療現場に在籍してスキルアップを希望する等が挙げられます。
離島で深刻な看護師不足の現状を打開するため、県病院企業団は、看護師資格がある都会のシングルマザーを呼び込む「しまの病院ワーキングママサポート事業」に本腰を入れます。具体的には、6月中旬から首都圏の山手線等6路線の車輌内で15秒の誘致CMを流す等、自然の中で子育てをしたい看護師の誘致を目指すそうです。一方で、潜在的看護師の活用を図るため、県看護協会(ナースセンター)に登録している方のみしか把握できませんが、長崎県の医療人材対策室を通じて斡旋も行って頂いています。
現在、対馬出身で企業団の医療技術修学資金貸与制度活用者は看護師14名、薬剤師3名で、今年度末には4名の受給看護師が卒業予定です。
企業団病院間特に対馬地区の病院間で活発な人事交流を進めていき、対馬地区の医療人材の有効活用に努めたいとのことです。
今後とも企業団と対馬市は、連携をより一層図り、医療従事者を目指す生徒の増加を図るよう益々努められたい。また、潜在看護師の把握と掘り起こしや、再雇用を積極的に進められたい。
②医師・看護師の夜勤体制の現状と改善策
上対馬病院では、病棟看護師の夜勤体制を平成25年度までの3名体制から、今年度より1名減の2名体制となりました。労働基準法では、夜勤は複数名で実施することされています。新生児がいなくなったこと、入院患者数が減少したことを勘案し、外来当直1名の応援を受けながら2名体制で対応可能と判断したとのことです。
中対馬病院の外来当直・病棟夜勤の昨年度月平均実績は、医師が外来当直7回。看護師が外来当直2回、病棟夜勤8回でした。
対馬いづはら病院の外来当直・病棟夜勤の同実績は、医師が外来当直2.5回。看護師が外来当直3.0回、病棟夜勤は一般病棟6.3回、ICUは8.8回でした。また、対馬いづはら病院の複数の診療科で、オンコールによる拘束体制を行っています。
③看取りやターミナルケアへの市民の理解を深める方法について
国は在宅医療の充実に向けた診療報酬制度改正等を推進していますが、全国的に在宅医療への移行は思うように進んでいません。対馬市においても、老々介護や独居高齢者の増加等家族の介護力不足、集落の点在に起因する医療・介護サービス提供の非効率性、24時間対応型のヘルパー支援体制の未整備、訪問医や在宅死亡を確認くださる医師不足をはじめとする在宅医療提供体制の脆弱性等が、在宅看取りの普及が進展しない大きな要因となっていると思われます。最後まで自宅で過ごすことは困難であっても、本人が在宅を希望すれば少しでも長く在宅が可能となる支援体制を整備すること、在宅医療・介護の経験者の実体験を拝聴する機会を頻繁に設ける等、看取りやターミナルケアへの市民の理解を深めることも重要だと思われます。
④在宅医療・訪問看護の現状と今後の充実に向けた取り組み
上対馬病院において、昨年度は在宅で看取った方は2名。ただし、在宅期間は短期であり長くとも1ヶ月でした。最近3年間で亡くなった訪問看護サービス受給者56名の内、在宅で看取った方は6名に留まっているそうです。最近は、老々介護が益々増加し、認知症の方の割合も増加しています。
中対馬病院においては、当該事業は実施されていません。
対馬いづはら病院においては、主に癌で在宅ターミナルケアを希望する方を中心に支援しています。同支援者の内、昨年は12名が亡くなられ、在宅で看取りが8名、病院で看取りは4名でした。
在宅医療・介護の普及は、市民の意識改革も大切ですが、ナカノ在宅医療クリニックの中野一司院長が仰るように、慢性期医療をキュア思考の病院医療の哲学で対応しようとする傾向から医療現場や行政も脱却することが在宅看取りの普及へ繋がるのではないかと思われます。
⑤健診活動の充実について
地域保健活動・地域包括ケアの充実に向けての取り組み
上対馬病院においては、病院規模等を勘案すると健診受診件数は比較的高水準にあります。中対馬病院においては、医師数の減少もあって平成22年度から平成25年度にかけて半減しています。対馬いづはら病院管内においては、島内民間医療機関での受診も多いのですが、国保ベースで対平成22年度比30%増、また事業所健診も堅調です。これは、対馬市の健診勧奨の成果が徐々に現れているものと思われます。
今後の医療改革の重点項目は、前述の在宅医療の充実と予防医療の普及による医療費削減とも言われています。定期健診受診率向上による病気の早期発見早期治療は、市民の生命・健康を守り、ひいては医療費の削減に繋げられる等の予防医療の有益性を広く市民に周知することを、これまで以上に対馬市と連携し推進されたい。
⑥上対馬病院の産科・外科の復活見込み
平成24年度から上対馬病院で分娩取り扱いを中止した主な要因は、常勤外科医が不在となり帝王切開等不測の事態に対応できなくなったことです。医師不足、中でも外科医不足は全国的に深刻であり、特に若い外科医は手術の症例・件数が少ない過疎地の小規模医療機関に勤務することを望まない傾向が強いのが現実です。上対馬病院に勤務してもよいという、勤務義務年限任期明け外科医か公募による外科医が現れれば、外科の常勤化復活は有り得ますが、外科医1名体制では手術を十分には実施できません。また、上対馬病院で常勤外科医2名を配置することは実状から考えにくく、たとえ常勤外科医を1名確保できたとしても、手術に十分対応できない等リスクが大きいため、分娩再開は極めて困難と思われるとのことです。
⑦上対馬病院の特別診療科目の充実に向けた取り組み
当初新統合病院建設のメリットとして、医師が集約されることで、各専門診療科目の医師数は対馬いづはら病院より増加するため、上対馬病院への特別診療に派遣する当日の基幹病院の負担は軽減化されることも上がっていました。特別診療回数を増加させ過密診療緩和の要望が出されました。
⑧上対馬病院において、透析患者の指定病院化はできないか
指定病院となるためのハードルが高く、現状では著しく困難です。ただし、透析患者は障害認定に該当するため、自立支援医療との患者と負担金は同額負担となりますので、指定病院になる必要性はあまり高くないと思われます。
【新統合病院開院後について】
①長期療養患者への対応(患者の退院に向けての調整)
人工呼吸器等装着等の慢性患者の受け入れ先対策
上対馬病院においては、開院前後に入院患者の受け入れはさほど生じないと思われます。
中対馬病院においては、療養型病床37床を徐々に空室化しており、秋までには6~7名に減少する予定です。
対馬いづはら病院においては、入院初期から介護保険制度等を活用したスムーズな退院に向けた相談を実施しています。しかし、受け入れ福祉施設不足や家族の介護力不足等の事情から入院を継続させざるを得ないケースがあります。1年後に開院する新統合病院の病床数は、下地区2病院の合計病床数より約60床も削減されるため、開院当初に病床不足となることが心配されます。そのような事態を回避できるよう、月2回退院調整協議会を開催し各病棟で情報を共有する等、計画的に入院患者を徐々に減少させるよう努めているとのことです。
②安心安全出産事業の充実に向けた取組み(付き添い者の宿泊室等)
上対馬病院で分娩ができなくなったことに対する対馬市の出産支援事業の利用件数は、平成24年度が36件(内、里帰り出産9件)、平成25年度も36件(内、里帰り出産7件)です。
現在、対馬いづはら病院には付き添い者宿泊室が3室あり、稼働率は59%です。新統合病院では4室設置するため、充分対応できるであろうとのことです。しかし、付き添い者宿泊室は当該事業の対象者以外も利用するため、一時的には不足が生じる可能性もあり、事業主体である対馬市はそのような場合には対応できるよう、今のうちから新病院と連携を図るよう要望しました。
③へき地医療の支援で各地域診療所へ派遣をお願いしているが、新病院開院後も継続可能な体制なのか
上対馬病院の対象診療所は一重診療所のみで、継続予定です。
新病院においても、医師の充足が不可欠ですが、全診療所で変わらず継続できるよう最大限努力するとの回答でした。
④訪問診療の報酬が一部下げられたことによる影響はあるか
一部報酬が低くなったのは、対馬市には未設置のサービス付き高齢者向け住宅等の改訂であり、対馬市では影響はないと思われます。
⑤電子カルテ化後の市内診療所や老人福祉施設との連携のあり方
上対馬病院においては、今年度より電子カルテの運用が始動しており、診療委託を受託している有料老人ホーム「ひとつばたご」「日吉の里」とは既に共有化が始まっています。新病院においては、開院と同時に電子カルテ化されます。導入機種は上対馬病院と同機種であり、開院前に島外にでることなく研修も可能であり、既に研修日程も計画されています。
ネットワークに加入もしくは構築することに関する評価は積極的な評価と慎重に検討すべきとの両論あるようです。
電子カルテ化を機にネットワークを活用する方法は、既存のネットワークに加入する方法と、対馬地区の医療・介護施設独自のネットワークを構築する方法の2つが考えられます。既存ネットワークの場合、主に長崎県の医療機関が加入している“あじさいネット”への加入が候補として挙げられています。上五島病院は既に加入しており、佐世保市や長崎市の大病院との連携による多大なメリットを享受してします。しかし、対馬市民は福岡の病院を多く利用するため、新上五島町民ほどメリットを享受できません。対馬地区独自のネットワークを構築するよりも、あじさいネットに加入する方がコスト削減可能ですが、あじさいネット加入料金や維持負担金を島内の診療所や民間医療・介護施設に負担いただけるのか、ほかの予算措置を探るのか、不確定とのことです。そのほかにもセキュリティーの確保の課題等、判断が難しい課題が山積みではありますが、対馬市民の医療に関わる利便性向上を図るネットワークの構築または加入を関係機関同士や行政で充分に検討されたい。
⑥ドクターカー(ラピッドレスポンスカー)の導入について
(対馬市と企業団のどちらが主体か)
はじめに、対馬市における救急車搬送による30分以内搬送率は全国水準を上回っていることが紹介されました。これは、市内各地に救急車が配備され、公立病院は基本的に受け入れ拒否を行わないことから、都会で問題となっているいわゆる救急患者のたらい回しがないことによるものです。
しかし、基幹病院が人口密集地域の厳原地区から移転すること等を踏まえて、新病院建設計画にも、サイレン、赤色回転灯を装備した医師等の搬送のみを行う乗用車ベースのラピッドレスポンスカーの導入検討の必要性が明記されていました。また、昨年12月~3月にかけて対馬市救急医療搬送体制検討委員会が開催され、(島内)救急搬送ヘリコプター導入も検討されましたが、報告書では救急搬送ヘリコプターの有効性は理解できるが、対馬救急医療研究会からの要望書で示されたように、救急搬送ヘリコプターに先行させてドクターカーの整備をすすめるべきではないかと提言されました。現実的で比較的容易に配備可能なラピッドレスポンスカーの導入に向けて、行政と県病院企業団間で早急な検討を要望しました。
以上で、厚生常任委員会の所管事務調査報告を終わります。